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『福島ロボットテストフィールド』を支える若手エンジニア「RTFを、ロボット開発の最前線にしていきます」

2020年02月03日

三枝 芳行さん

福島ロボットテストフィールド 技術部技術課 副主査

1986年生まれ、神奈川県出身。子どもの頃からロボットなどのメカニズムに興味を持ち、高校卒業後は神奈川工科大学工学部福祉システム工学科で福祉ロボットを研究。卒業後は技術者派遣事業大手のアルプス技研に就職。メーカー等で生産機械の機器管理、医療機械部品の開発、生産設計などを担当する。2018年、同社から派遣され、福島イノベーション・コースト構想推進機構に福島ロボットテストフィールドの立ち上げメンバーとして着任。19年4月より現職。

未曾有の災害を経験したからこそ、福島には防災・減災を軸とした新技術を生み出す環境がある。ひとりのプレイヤーとして、あるいはチームとして、福島発の技術開発に携わるヒトと企業に焦点をあてる本コーナー。初回は2020年春に全面オープンする南相馬市の『福島ロボットテストフィールド』技術部の三枝芳行さんが登場。陸、海、空のフィールドロボットの世界的な開発拠点を、技術面から支える三枝さん。その素顔と、三枝さんらが実現する同施設の高機能の秘密を探った。

福島ロボットテストフィールド(以下、RTF)は、南相馬市の復興工業団地に隣接するロボット研究開発拠点だ。東西約1km、南北約500mという広大な敷地に、無人航空機エリア、水中・水上ロボットエリア、インフラ点検・災害対応エリア、開発基盤エリアが設けられ、空、海、陸で活躍する「災害対応ロボット」を実際の使用状況を再現した環境で開発、試験できる。

「例えば無人航空機エリアでは、ドローンの衝突回避、不時着、荷物の落下など、様々な飛行を試せるほか、突風で機体が安定性を確保できるかどうかを計測する解析ツールも揃っています。水中・水上ロボットエリアでは、市街地の水害を再現し、ロボットやドローンを使った情報収集や救助のあり方を研究できます。また、濁った水の中で観測機器の性能を測る水槽も用意しています」

技術部技術課の三枝芳行さんが、説明してくれる。

RTF展望デッキから東を望む。写真左に見えるのは、平時・災害時のプラントを再現した施設で、
点検、情報収集、機器操作に関する試験や操縦訓練を行うことができる

ほかにも、トンネルや橋梁等の亀裂、老朽化の再現や土砂崩落現場の再現など、実に様々な災害・老朽化状況をつくり出す施設があるという。東日本大震災や台風被害など大規模自然災害を経験した福島だからこそつくり得る、真に実用的なロボットの開発を後押しする環境だ。

「すでに使用が始まっているエリアもありますが、すべての施設が完成するのは2020年春の予定です。現在、施設内の表示や使用時の注意事項の作成、予約受付のマニュアル作成などを急いでいるところです」

「手探りの相談でもいい」
ゼロから手厚く支援

RTFが従来の工業技術試験場と一線を画すのは、その広さや再現できる状況のリアルさ、最新技術に対応できる点だけではなく、開発支援の「手厚さ」にある。三枝さんら技術課のスタッフが、同じ技術者として使用者に伴走し、アシストしてくれるのだ。

「最初にどういった試験をしたいのか、何を作りたいのか詳しくお話を伺い、この実験ならこの施設でできますね、など詰めていきます。あわせて製品の仕様書を拝見し、法律に抵触しないか、安全上問題ないかを調べ、申請が必要ならお知らせします。例えば、ドローンのような無人航空機で200g以上あるものを、150mより高く飛ばすには航空法により空港事務所に許可を申請する必要がありますが、それをご存知ない使用者の方もいらっしゃいます。どこにどう申請すればいいか、書き方も含めてご説明します」

状況によっては、開発そのものについてアドバイスをすることもあるそうだ。

「ここに試験に来られる方の多くは技術者ですが、中にはそうでない方が『こういうことをしたい』とアイデアを持ち込まれるケースもあります。そうした場合、お話を伺いながら一緒に深掘りして具体的な作業に落とし込みます」

「具体的に」とは、いったい、どういった作業をいうのだろうか。もっと分かりやすく説明してもらった。例えば「ロボットにリンゴを持ち運ばせたい」という案が持ち込まれた場合。

実現するには、リンゴを見つけ、大きさを判断し、潰さないようにつかみ、どこからどこまで運ぶのか判断するなど、画像診断やセンシングなどいくつもの技術が必要になる。

「複数の技術要素に分解し、こういうセンシング技術が使える、モーター制御の方法があるといったことをご説明します。そして、その達成にはどういう部品が必要で、それらをテストするにはこういう方法があるということもアドバイスします。試験結果の解析も一緒に行います」

もちろん、工学知見を備えた専門家に対しても、求められればアイデア提示を惜しまない。

「開発段階の技術など伏せるべき情報について口外しないことは言うまでもありませんが、最近はこういう技術が注目されているとか、ドローンのこんな輸送方法の有効性を調べたらどうかなど、ご提案することもあります」

頼もしいアシスタントになっているようだ。では、三枝さんはその知識をどのようにして体得したのだろう。

「設計や現場の実務で培ってきた知見を生かせるのも、うれしいし、自信になります」

根っからのロボット好き。
設計から製造、調整までを経験

現在はRTFで活躍する三枝さんのご出身は神奈川県。小さい頃からロボットが大好きで、高校卒業後は県内の工科大学に進む。2005年当時すでに高齢社会化の問題が指摘されており、社会課題の解決に役立ちたいという思いと重なり、福祉関連のロボットを研究する学科に所属。ロボットに距離を判断させる技術を研究する。

卒業後に進んだのは、開発・設計の高度化サービスを提供する「アルプス技研」だ。

「卒業してもロボットに関わっていたかったんですが、当時ロボットを作っている会社がほとんどなかった。その点、アルプス技研は社内で毎年アルプスロボットコンテスト(ARC)を開いているんですよ。全国の営業所から30ものチームが参加するという、大きな大会です。それに、開発・設計に特化した派遣会社ならいろいろな企業に行って技術を学ぶことができる。そう考えてこの会社にしました。内定が出た大学4年生のときから、さっそくコンテストに参加しました(笑)」

今も郡山営業所のチームに所属し、ロボットを作っているという。

「ARCのおかげで成長できたと実感しています。私の仕事は設計が中心で、ARCでもメカの設計を担当しているのですが、実際に作ってみないと分からないことが非常に多いです。この電圧ならケーブルの径はこのくらい必要だとか、この箇所の強度を上げないと輸送時にすぐ故障するとか。そういったことを、経験を通して覚えられる。失敗しても損害を生むわけではないので、チャレンジもしやすいです」

派遣先でも狙い通り、様々な技術や考え方を学んだそうだ。

「自動車メーカーのラインに就いたこともあるし、生産機械の機器管理業務の経験もあります。その後に医療機器の部品設計をするようになったのですが、生産現場のことが分かるので、誤差の調整の仕方まで考えて生産設計できました」

ロボコンの経験と、モノづくりの入り口から出口まで携わったことで得た知見が、技術者としての三枝さんのベースにあるようだ。

では、RTFに来たきっかけは?

「ロボコンでチームを組んでいた先輩社員から、こういう施設をつくる構想があること、スタッフを募集していることを聞き、すぐに手を挙げました。名称に『ロボット』とつくこと、ここなら最新のロボットが見られそうなこと(笑)、何より、まったく新しいものをつくることだけが決まっていて詳細は未定だということに魅力を感じました」

挑戦しがいがあると、飛びこんだという。

認証機関化を準備中
よりスピーディーな開発が可能に

「設備や機能が整えば、ここが世界のロボット開発の最前線になると思います」

そう、三枝さんが話す。

「たしかに、量産体制は、中国が優れています。でもピンポイントで活躍するワンオフのロボットに関しては、日本が強い。RTFには国内最大級、最先端の実験設備が揃っているし研究施設もあります。新しいモノがここから生まれるのは間違いありません」

そのためにも、現在はRTFを認証機関とする準備に注力しているそうだ。

「ロボットに関しては、まだ性能評価の基準や手法が確立していません。そこでまずは試験所などの測定能力を認定するISO17025を取得し、基準等ができしだいその認定を行っていきたい。ここで試験をし、そのまま認定を通すことができたら、ロボット開発のスピードが上がるはずです」

そうなった際には、多くの研究機関が南相馬に開発拠点を移してほしいとも、三枝さんは続ける。

「開発拠点と試験場、認証機関が近いことのアドバンテージは大きいため、ここを拠点にする研究機関が増えたら研究者同士の情報交換もできるし、開発で提携を結ぶなど、いろいろなつながりが生まれやすくなります。日本のロボット開発の加速度がさらに増すものと期待しています」

そんな橋渡しもできると、三枝さん。RTFを舞台に、様々な化学反応が起こり、技術が結実していく。その触媒としての機能を担っていく覚悟だ。

福島ロボットテストフィールド

福島イノベーション・コースト構想に基づき整備する「福島ロボットテストフィールド」は、物流、インフラ点検、大規模災害などに活用が期待される無人航空機、災害対応ロボット、自動運転ロボット、水中探査ロボットといった陸・海・空のフィールドロボットを主対象に、実際の使用環境を拠点内で再現しながら研究開発、実証試験、性能評価、操縦訓練を行うことができる、世界に類を見ない一大研究開発拠点。