未来テクノロジー
テクノロジーが拓く、豊かな未来。挑戦し続ける人と企業をクローズアップ
松本 美勝さん
株式会社 東日本計算センター エンベデッドシステム事業部 エンベデッドシステム開発3部 第1Gr
1980年生まれ、福島市出身。会津大学コンピュータ理工学部コンピュータハードウェア学科卒業後、東日本計算センターに入社。エンベデッドシステム事業部に所属し、主にカーオーディオ、カーナビのソフト開発に従事。2015年に会津大学ロボットバレー創出推進事業のメンバーとして加わり、2016年、複数ドローンの隊列飛行の技術開発プロジェクトのリーダーに就任。
羽賀 公亮さん
1994年生まれ、いわき市出身。いわき明星大学(現:医療創生大学)科学技術学部科学技術学科在学中から東日本計算センターでアルバイトを始め、卒業後、入社。企業のWeb開発、Web制作などに携わった後に、R&Dセンターへ異動。2016年より水中ロボット開発を担当
未曾有の災害を経験したからこそ、ここ福島には、世界最先端の防災技術や廃炉研究が生み出されてきた。福島発の技術開発に携わるヒトと企業に焦点を当てる本コーナー。今回は、2019年にいわき市に「ながとイノベーションセンター」を開設した東日本計算センターの若きエンジニアが登場。ひとりは、ドローンの高高度3次元隊列飛行システムを開発する松本美勝さん。もうひとりは、廃炉作業での活躍が期待される半自律制御水中ロボットの開発に挑む羽賀公亮さん。いわきから世界に挑む、2人の志に迫った。
福島イノベーション・コースト構想のもとで挑む、前代未聞のドローン高高度3次元隊列飛行
2019年4月、次世代技術の研究開発・実証実験施設である「ながとイノベーションセンター」がいわき市に開設された。廃校となった旧永戸小学校をリノベーションし、R&Dの新たな拠点に据えたのは、同じくいわき市に本社を構える「東日本計算センター」だ。
元々、受託計算業務のベンチャー企業として半世紀以上も前に産声をあげた同社は、時代の変遷とともにサービスを拡充。福島県を代表するICT企業として、大手SIer企業や百貨店、地方自治体に向けたICTソリューションを展開している。2009年に設置したR&Dセンターも実を結びつつあり、R&Dセンターが主導するプロジェクトが福島イノベーション・コースト構想の実用化のための補助金(「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」経済産業省・福島県)にも採択された。
その1つが、ドローンの隊列飛行の技術だ。この取り組みは、2015年に始まった「会津大学ロボットバレー創出推進事業」の一貫でもある。その狙いは、会津大学とともに地元企業のソフト開発を後押しすること。ドローン飛行制御や災害用ロボットなどの分野で、浜通り地域の企業との産学連携事業が進んでいる。
「この事業を通じて、弊社はドローンに関わることになりました。他には、画像処理と通信の技術開発を担当しています」と語るのは、ドローン隊列飛行のリーダーを務める松本美勝さん(エンベデッドシステム事業部)。自動車用音響機器の組み込みソフトウェアの開発に従事した後、2015年のプロジェクト開始時に抜擢されたという。
「プロジェクトの開始当初は、ドローン複数台による隊列飛行システムを使った農薬散布等を想定していました。その後、環境データを測定している企業との共同開発の話が持ち上がったことから、実用化を念頭に気温や湿度、気圧、風向風速等の測定に舵を切ってシステム開発。2019年には高度150mで機体を30mおきに配置しての27機のドローン隊列飛行に成功しました。現在は、機体を高度を1,200m、500m~1kmおきに9機のドローンを飛ばせるようにシステム開発を行っています」
従来のように、GPSゾンデ(気球と組み合わせて上空に飛ばし、高層気象を観測する装置)で気象を観測する方法では、時間の経過とともに気球が風に流されてしまうため、観測位置を制御できず、定点観測が困難だった。しかし、複数機のドローンを隊列飛行させることで、各拠点の定点での気象データが取れるようになる。
「予測精度が上がることによって、局地的なゲリラ豪雨などを予測できるようになると期待されています。加えて、広域な崖崩れや水害が起こった時に、複数のドローンで一気に災害状況を把握するといった新たな運用方法も視野に入れています」
50年以上におよぶ同社史上でも初めての試みである「ドローンの研究開発」。しかも挑むのは、他に類のない「隊列飛行」。時代に合わせて常に新たなチャレンジをする姿勢は、「弊社のDNA」と、代表取締役社長の鷺弘樹さんが補足してくれた。「世界中の自動車メーカーに鍛えられながら、科学技術や制御系の研究開発を行ってきた実績と自負があります。ドローンの隊列飛行を実現して、社会課題の解決に貢献したい」。
世界最先端の廃炉技術。
耐放射線性の半自律制御水中ロボット
同社はまた、「廃炉」に貢献する耐放射線性の水中ロボットの研究開発でも注目を集めている。この水中ロボット「ラドほたる」事業を担当するのが、羽賀公亮さんだ。弱冠26歳の青年は、どのような想いで開発に挑んでいるのだろうか。
「わたしは元々、大学3年生の頃から弊社でアルバイトを始め、入社後は主にWeb開発の受託業務を担当してきました」(羽賀さん)。当然ながら、ロボット開発は未知の分野。「放射線量が高い環境下でも影響を受けずに作業できる水中ロボットというのは、本当に難しくて。当初は、モーターを1つ動かすのも手探りの状態でしたから。電子科だった高校時代の記憶をたどったり、上司にアドバイスをもらったりしながら、試行錯誤を繰り返しました」と振り返る。
半導体は、放射線に弱い。そのため、一般的によく使われるGPSやジャイロセンサー等を搭載できない。課題は、これらを搭載せずにロボットを制御するソフトの設計だ。「水中ロボットの姿勢を自律制御する機能は、佐賀大学さんに協力いただきながら進めています。水中ロボットをカメラでとらえ、その画像を基に姿勢と位置を算出し、どんな場所でも自律的にコントロールできるロボットを完成させるのが目標です」(羽賀さん)
現在は、JAEA楢葉遠隔技術開発センター(楢葉町)の水槽でテストを行い、2019年度版の試作機を改良中という。「最終的には、福島第一原子力発電所の格納容器内に潜入して内部調査をするなど、廃炉作業に貢献するロボットを作りたい」と、実用化に照準を合わせている。
復興や防災に役立つ。
使命感をもって、技術を磨く
期せずして2人の若きエンジニアは、ともに自身の専門分野とは異なるプロジェクトを担当した。なぜ、彼らを抜擢したのか。その背景を、R&Dセンター長の中野修三さんが説明してくれた。「ここぞというときに力を発揮するエンジニアというのは、問題や課題が出た時に、自分で調べて解決していく能力が高い。新しい分野への理解力や意欲もある2人なら安心して任せることができました」と、信頼を寄せる。
とはいえ、これまで経験のない分野だけに、「幾度となく壁にはぶつかってきた」。それでも諦めず、研究に励む原動力になったのは、東日本大震災の経験、そして地元への想いだ。
福島市出身で、就職活動中から地元企業を志望していたという松本さんは「自分が携わっているプロジェクトが、何らかのカタチで復興に役立つことが嬉しい。チーム全体のモチベーションにもなっています」と語る。
一方で羽賀さんは、高校2年生の時に被災し、当時から将来的にもいわき市で働きたいと考えていたという。「高校3年生になっても震災の影響で登校できない状態が続き、そんな状況でいわきを離れるという選択はありませんでした。いわきでずっと頑張っていこう。そう考えていたので、地域の復興に貢献できるこのプロジェクトにも使命感をもって臨んでいます。いわきは地方都市ですが、地方からでも世界に誇れる技術を発信できることを証明したい」と話す。
地域に根ざし、長年事業を続けることは、地元の人々の雇用を生み出し、育成することにつながる。技術者の「復興のために」という思いを前向きな力に変えていきたいと、鷺社長も続ける。「不幸にも、福島で災害が起きてしまいました。でも下を向いてばかりもいられません。我々の世代で、復興事業に関われる機会をいただいたので、前向きに取り組みたい」。
1階がオープンスペースとして、市民に開かれている「ながとイノベーションセンター」。地元の方々との交流を深める機会も多い同社だからこそ、市民からの期待を肌で感じることも多いだろう。
「我々の研究・開発の場であるとともに、ドローンの体験会をはじめICTを活用した地域の方々との交流の場でもあります。我々にとっても、いわき市の市民の方々にとっても、未来のためのセンターなのです。市民の方々との触れ合いの中で、いわきにあるあの会社は何かと面白いことをやっている。その面白いことがちゃんと仕事になっていると、誇りに思ってもらえるような存在になれたら」と、中野さんは話す。
研究開発を通じて、いわきを元気に。技術者たちの想いが結実し、ドローンや水中ロボットの技術が地元の人々の誇りとなる日はそう遠くなさそうだ。
株式会社 東日本計算センター
1965年の設立時は受託計算業務を担い、その後、システムエンジニアサービス、ソリューションサービス、システムインテグレーションサービス、セキュリティコンサルティングなど、社会ニーズの変化とともに業容拡大。2019年4月からいわき市の廃校を利用したイノベーションセンターを開設。R&Dセンターで推進した産学連携プロジェクトの具体化や事業のイノベーションのほか、地域住民の方々との交流の場として地域貢献にも努めている