未来テクノロジー

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世界初の飛行艇型ドローンの実用化に向けて。「大事なことはスキルより気持ち」

2020年03月12日

金田 政太さん

スペースエンターテインメントラボラトリー代表取締役CEO

1984年生まれ。東京工芸大学映像学科卒。大学1年の時に種子島でロケットの打ち上げを見て宇宙開発に興味を持つ。卒業後は広告映像や音楽ビデオの制作、商品企画デザイン等を行うも宇宙への興味を抱き続け、惑星探査ロボットの開発を行う株式会社ispaceの立ち上げに取締役として参画。自律制御ロボットの開発と経営に従事。2014年にスペースエンターテインメトラボラトリーを設立、代表取締役に就任。2018年より南相馬市で飛行艇型ドローン開発をスタート。

福島発の技術開発に携わる“ヒト”に焦点をあてる本コーナー。今回クローズアップするのは、海や川などの水面で発着が可能な飛行艇型ドローンの開発を進める、スペースエンターテインメントラボラトリーCEOの金田政太さんだ。出身は東京、現在は南相馬市在住。大学で映像を学び、卒業後は映像制作会社でミュージックビデオを作っていたという金田さんが異色のチャレンジに至った道のりとは? そして、完成間近の飛行艇型ドローンが秘める可能性に迫る。

2時間飛べる飛行艇型ドローン。水上発着も可能

南相馬市新規産業創造センターの扉を開けると、鮮やかなオレンジ色が目に飛びこんできた。金田政太さんが代表を務めるスペースエンターテインメントラボラトリーが、開発と実用化を進める飛行艇型ドローン「浜鳥」の試作機だ。全長1,960mm、翼幅3,100mm。胴体は船底状になっていて、水上での発着機能を備える。まさに飛行艇だ。

「一般的なマルチコプター型のドローンは、自重を支えるために推力を出し続ける必要がありますが、浜鳥は固定翼、つまり飛行機型なので、前進する力さえあれば揚力で浮きます。一般的なマルチコプター型が20分間~30分間飛ぶ動力で、約2時間、飛ぶことができます」

仮称「浜鳥」の巡航速度は時速72㎞だというから、計算上は百数十㎞の航続距離になる。

製作・実験を行う福島支社にて撮影した、飛行艇型ドローン「浜鳥」の試作機

海難救助、水産分野で世界的なポジションを狙う

では、なぜ飛行艇型なのだろうか。

「うちの会社は航空宇宙系のエンジニアが集まって起業した会社で、人工衛星や高高度気球などの開発と運用のほか、マルチコプターを使った農地やインフラ設備のリモートセンシング事業を行ってきました。その事業の中で、お客さんから『もっと長く飛べないの?』という相談を受けるようになり、飛行機型のドローンを検討したのですが、今度は別の課題に直面したのです。日本では、飛行機型ドローンが離着陸できるような平地が、簡単に見つからなかったのです」

ドローンとはいえ飛行機型である以上、着陸手前から高度を下げるために広く開けた滑走路が不可欠。しかし、ドローンの使用現場のそばに、そんな平地があるとは限らない。

「でも日本は四方を海に囲まれ、川や湖も多いですよね。水域を滑走路に使えたら、飛行機型の固定翼ドローンを日本国内で運用することが簡単になるのではないかと考えました」

「浜鳥」の最長滑走距離は50m。確かに、水面を滑走路にできるなら、日本国内で確保するのもそう難しくなさそうだ。

では、どんな分野での活用が見込めるのだろうか。

「例えば、大型漁船で遠洋漁業を営む事業者から大きな関心をいただいています。浜鳥の機体には、高感度カメラやソナー、水質測定器などを搭載できるので、魚群探知が可能。海外の大型漁船では、ヘリコプターを積んで出港し、沖合でヘリを使った大規模な魚群探索がよく行われていて、ヘリの維持に年間5,000万~1億円かかっているようです。それに対して当社の機体の想定販売価格は、機体と操作のためのコンピューター等を合わせて計1,500万円程度。それでヘリと同様の機能を果たせるのですから、価格として競争力があると思っています」

空中からは水面や地面を、水面からは水中のセンシングが可能なので、測量や海洋調査を手掛ける建設コンサルティング系企業も関心を寄せているという。もちろん、水難救助にも有効だ。事故現場のそばで離水でき、長く捜索し続けられるメリットは果てしなく大きい。

「世界を見ても飛行艇型ドローンはほぼ実用化されていない。グローバルでポジションをとれる技術になると思います」。金田さんが、その見通しを聞かせてくれた。

飛行艇型ドローンを活用したセンシング・モニタリングの図(提供:スペースエンターテインメントラボラトリー)

“野生育ち”のエンジニアからロボット開発企業のCEOに

金田さんは、東京都大田区生まれ。小さいころから映画好きで、大学は芸術学部映像学科に進んだ。

「宇宙にも興味があったので、大学1年のときに種子島にロケットの打ち上げを見に行ったんです。そしたらもう、『ロケット、カッコいいな』と。そこからは映像の勉強をする一方で、宇宙開発について自分で調べたり工学部の授業に潜り込んだりしていました」

大学卒業後、映像制作会社勤務を経てフリーランスで映像制作を手掛けるようになっても、宇宙への興味は尽きなかった。そんな折、とあるイベントで民間月面探査ロボットプロジェクト「HAKUTO」の代表と知り合った。

「『活動の様子をYouTubeにアップしたいから、その映像を作ってくれないか』と依頼されました。喜んで引き受け、最初は開発や経営会議などに立ち会って撮影していたのですが、徐々にカメラを横に置いて口を出すようになって、気付いたら一緒にロボットを作っていた(笑)。やがて、プロジェクトが株式会社化することになり、取締役という形で参画することになりました」

会社が軌道に乗ったタイミングで独立し、航空宇宙技術の幅広い活用を事業とする今の会社を立ち上げたという。

「好きなことなら自分で学んでいける。現在もインターンの学生から多くのことを学んでいます」

芸術から航空宇宙工学へ。大胆な転身だが、では、工学の知識はどうやって体得したのだろう。

「現場で見たり話したりする中で覚えたことも多いし、自分でも調べました。工学部出身者ではないけれど必要な知識は持っているので、よく『野生育ちのエンジニアですね』と言われます。野生というか、野良かもしれませんね(笑)」

前職で企業経営を学び、今もインターンの学生から学ぶことがあると話す。そのときどきに吸収できることを真摯に吸収し、そしてまた次に進む。それが、金田さんの成長戦略と言えそうだ

環境が整う浜通りで、テイクオフはもうすぐ

最後に、なぜ「南相馬」だったのか。どうして、南相馬に開発拠点を構えたのだろうか。

「きっかけは、福島イノベーション・コースト構想を推進するための『地域復興実用化開発等促進事業費補助金』です。ロボット分野の補助金があると知って進出してみたところ、直感的に、開発をするならここしかないなと」

1つの大きな理由に、実験環境が整っていることを挙げる。

「ロボット系の開発は、作って試して改良する、というサイクルをできるだけ早くまわすことが、競争力になります。特に当社のようなベンチャーはそう。ここは福島ロボットテストフィールド(RTF)もあるし、行政の人や地元の人がロボット開発の実験をよく分かっていて、話が早い。許可も調整もとてもスムーズに進みます」

ほかにも「重宝している制度」として、「南相馬市ロボット実証実験支援助成金」を紹介してくれた。

「実験の経費を助成してくれる制度で、実験の手伝いに東京からインターンを呼ぶ際などに活用しています。彼らにとっても、南相馬でほかの企業のロボット実験を見ることができて、いい刺激になるようです。もちろん、刺激を受けるのは僕自身もです」

加えて、製造業者の層の厚さと、そこにアクセスする体制が整っていることも魅力だとも。

「製品版の製造はプロにお願いする予定で、すでに南相馬の製造企業3社と協働を始めています。3社ともRTFのコーディネーターにつないでもらいました。通常であれば、どういう会社にお願いできるのか、外部から来ると分かりづらいものですが、RTFに相談してみたら、すぐに適当な企業を紹介してくれました。実際に会ってみると、3社ともロボットを作った経験やそれぞれの強みがあって、話が早かった。今では、常に意見を交わしながら前に進んでいます」

飛行艇型ドローン「浜鳥」。試作機の細かい傷は、何度も実験を重ねている証。

地域のバックアップを受け、2020年度中の販売に向けて前進中の金田さん。「いずれは積載量を増やしてドローンの活用シーンを増やしていきたい」と、アイデアは尽きない。

「ロボットを企画設計し、飛ばして完成させるまで、当社では一貫してすべての工程を社内で行っています。大企業では、ロボット作りの一部分にしか関わることができないものです。すべてを経験できるのがベンチャーの強み。おかげで優秀な学生がインターンに集まってくれています。航空宇宙系、ロボット系に興味がある人は、ぜひ来てほしいですね」

スキルよりも気持ちが大事だと、力を込める。

「僕自身がそうであったように、専門的な知識がなくても、『好き』であれば学んでいけます。特に浜通りには、いろいろな企業や大学の研究者が集まっていて、いたるところで新しい技術の実証が行われている。ここにいるだけで最先端に触れ、知識を溜めていけます」。成長のチャンスがあると、金田さんが判を押す。

大学1年のときから憧れ続けた想いを胸に、金田さんはここ南相馬から世界を見据えている。

「大切なのは気持ちです。航空宇宙系、ロボット系に興味がある方は、ぜひ来てください。」

株式会社スペースエンターテインメントラボラトリー

河川や湖、海など第三者や人工物が少ない安全な水上で発着を行える固定翼を有する飛行艇型ドローンと、その高い飛行性能(長距離、長時間、高速)を最大限に活かし運用が可能な無人航空機システムの開発を行うベンチャー企業。現在、2020年度の実用化を目指し、開発を進めている。