未来テクノロジー

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ドローンを活用した測量技術で地域資源を可視化。「社会コンサルタント」が目指す、富岡復興

2020年03月31日

遠藤 秀文さん

株式会社ふたば 代表取締役社長

1971年生まれ。福島県富岡町出身。大学卒業後、都内の大手建設コンサルタント会社に13年間勤務。数多くのODA 案件の開発調査を担当し、訪れたのは海外24カ国に上る。2007年に帰郷し、(株)ふたばに入社。経営を担ってからは、「世界で通用するか」を判断基準に、技術に対する考え方、品質、労務管理などに対する意識を改革。現在の礎を築く。2013年12月、代表取締役社長に就任。技術士(建設部門)、APECエンジニア、測量士等保有

卓越した測量技術を礎に、福島イノベーション・コースト構想の一翼を担う企業。それが、株式会社ふたばだ。代表取締役社長を務める遠藤秀文さんは、ドローンを活用して地形情報や放射線量を測定するプロジェクトを推進し、故郷・双葉郡の復興を目指す。「世界進出」を見据える同社の取り組みを、「事業を通じて街づくりに貢献したい」という遠藤さんの想いと共に紹介する。

再び、にぎわいのある街へ。
空から放射線量を可視化

被災した富岡町ににぎわいを取り戻すために奮闘する株式会社ふたば。「街の交流人口を増やして再び産業を活性化するためには、現存する地域資源の把握が欠かせません。宿泊や観光などの経済活動、地域の集まりやショッピングなどの社会活動をどの場所で行っていくのか。現在のように、立ち入れるエリアを限ってその活動範囲を狭めたままでは、発展する見込みも小さくなってしまいます」と、代表取締役社長の遠藤秀文さんは富岡町が抱える課題を説明する。では、何から始めればよいのか。

「地理情報の見える化が不可欠だと思っています。肉眼では捉えにくい土地の履歴やディテールを明らかにすることで、空間放射線量の分布についてもピンポイントから面的な広がりまでを計測できるようになります。こうして得られた確かな最新データを各方面で共有し、地域のグランドデザインや施策に反映させていきたい」

そのための取り組みとして(株)ふたばでは、ドローンを使って空間放射線量を測定する他に、山林などの地形を3次元データ化すること、植生・土地利用形態を把握することの3つに注力。「ドローンを使った測量は、人力では難しい場所でも安全かつ正確に測定するのに適しています」。福島イノベーション・コースト構想関係補助金(地域復興実用化開発等促進事業費補助金)にも採択された注力事業について、そう語る。

遠藤さんを奮い立たせる背景には、もちろんあの震災がある。2020年3月1日現在、富岡町内の居住者は1,212人。今も多くの人が富岡町以外の県内外に居住していることになる。

「人と人との関わり合いがないと、社会は成り立ちません。そして、接点となる場の安全性の確保も欠かせません。我々が、空間放射線量の測定に努めるのは、住民に安全な場所の情報を伝え、その土地の活用方法を前向きに議論してもらいたいから。事業を営む企業にとっても、安全な場所の確保は大前提ですよね。地域に拠点を構える企業が増えれば、雇用が生まれ、新しい産業が生まれるといった良い循環が見えてきます」

遠藤 秀文さん(株式会社ふたば 代表取締役社長)。穏やかに、故郷への想いを言葉にする

課題の本質は住民帰還後の産業確保

山林や河川などを隅々まで除染することは、費用も作業量も莫大にかかってしまい、効率もよくない。除染作業を現実的に進めるには、やはり広範囲の中から放射線量の高い場所を判断し、ピンポイントで集中的に除染することが1つの解となる。そこで(株)ふたばが目を付けたのが、ドローンを使った上空からの放射線量測定だ。

放射線量計をドローンに装着してGPSデータと連動させれば、測定した放射線量を地図上に書き込める。結果として、線量の強い所と弱い所が一目で分かるようになる。

ただし、放射線量の測定で注意する必要のある点の1つが、放射線量は測定場所から離れるに従って減衰するという特性だ。具体的には、放射線の強さは距離の二乗で減衰することが知られている。

例えば、測定したい場所から3m離れた場所で測定すると本来の測定結果の9分の1の値になる。そのためふたばでは、測定した地図に書き込む放射線量は、どの地点でも地表面から1mの高さの値となるように補正計算を行い、精度を高めているという。

「放射線の特性や、グラウンドトゥルースデータ(Ground Truth Data:実際の地上で測定したデータ)に基づいて地表面の線量を換算する手法は、今後の除染作業の効率化や森林の再生に欠かせないものと考えています」(遠藤さん)

また、地表からの木々の高さや形状を正確に測れるレーザーを装着すれば、木々のわずかな隙間にレーザー光を通すことで精密な高さが分かる。あるいは特殊な画像を取得・測定するマルチスペクトルカメラを装着すれば、撮影したエリアが木々の生い茂っている場所なのか、あるいは畑なのかといった具合に土地の形状を子細に把握することもできる。

「ここには、豊富な山林資源があります。アジア・太平洋戦争が終戦を迎えた後に国策で植林した木々が70年~80年ほど成長して切り時を迎えていますし、山々にはキノコや山菜類もたくさん生えているはずです。でも今のままでは、そもそもどのような資源があるのか、資源育成の可能性があるのかも分かりません。我々は、未開拓な土地の用途や場所の経済化といった視点をおろそかにはしてはいけません」(遠藤さん)

測定に使用するドローンの実機(左写真)。飛行ルートはあらかじめ技術者がプログラムとして入力しておく。右写真の赤色の機器は、ドローンに装着するマルチスペクトルカメラ。波長の異なる5つの光を使って測定を行い、植物の生育状況などを見える化できる

「35歳で俺は帰る」
覚悟を胸に駆け巡る

穏やかに、理路整然と。遠藤さんが捉える地域課題を傾聴するうちに、その問題発見力、課題解決力が優れていることに気がつく。いったいその力は、どこで培われたのだろうか。ご自身に分析してもらった。

「35歳のときに、富岡町に戻ってきました。よく聞かれるのですが、35という数字には大した意味はなくて(笑)。単純に、18歳で高校を卒業してから福島を離れたので、故郷で暮らした年数と、外で暮らした年数がちょうど半分ずつになるからなんです。でも帰郷して地域に馴染んで行動できるようになるには時間が掛かることを考えると、35歳はよいタイミングなのかもしれません。様々な社会経験を積んでいますし、気力も体力も十分にあります。これは、大学3年のときに決めたことなんです。『35歳になったら故郷に戻って地域のために貢献しよう』と。高校の親友にも宣言していました」

帰郷する以前は、大手建設コンサルタント会社で13年間ほど勤務していた。そのほとんどを海外で過ごし、道路、港湾、海岸保全や災害対策などインフラ整備に関するあらゆるプロジェクトを経験。「国家単位で話を進めなければならない大規模なプロジェクトでは、多数の利害関係者が存在します。その時々で複雑に絡み合っている利害関係者が持つ課題を細かく分析して、最適な解決策を示すプロジェクトに幾つも直面するうちに、課題の本質は何なのか、その課題の最適解は何なのかを見極められるようになってきたのかもしれませんね」

言葉を丁寧に紡ぐ遠藤さん。「課題解決の糸口は、意外とコミュニケーションにあったりします」

「社会コンサルタント」となって街づくりを。
マチュピチュはじめ、世界へ進出

遠藤さんは現在、「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」というクラブを運営し、会社経営とは異なるアプローチで、街づくりやコミュニティーづくりにも奔走している。

「純粋にすごく楽しい。クラブそのものが、とてもポジティブなんですよ。前向きな空気は、周囲に良い影響を与えてくれます。測量から始まった当社の事業も、防災都市や街づくりへとフィールドを広げ、人と自然、コミュニティーを繋ぐ役割を担うようになりました。建設コンサルタントから始まった我々が、社会全体へと浸透してきた証しだとも考えています。今後は、『社会コンサルタント』として活動していきたいですね」

とみおかワイン葡萄栽培クラブの全景(左写真)。右写真は、収穫したぶどうを手に、スタッフとともに

震災と原発事故という未曽有の状態からの地域復興は、世界初のチャレンジであり、測量技術は間違いなく「世界」へと通じている。この3月には、マチュピチュ遺跡(ペルー)の測量へ向けたプロジェクトを進めるため、関係機関との協議および調査のため現地にも飛んだ。

「富岡で培ったテクノロジーを世界で羽ばたかせたい。そのためには、やはり足元の復興を着実に進めていかなくてはなりません。途方もないゴールかもしれませんが、それでも何のために、誰のためにそれをやるのか。課題を一つひとつ着実に抽出して、解決していく。若い世代には、そうした明確な目標を自律的に設定し、まずは挑戦することを期待したいですね」

過酷な環境にあえて飛び込んできた遠藤さん。自身のキャリアを振り返りながら、これからの富岡町を支える世代に向けたメッセージで結んでくれた。

株式会社ふたば

1971年に創業。祖業は、測量。震災からわずか1カ月後の4月11日に郡山市で事業再開。次いで、5月に相馬市、6月にいわき市に事業所を設置。震災後の2017年、「ドローンによる地形・画像計測と放射線量測定による広域空間線量の取得手法の開発」が、福島イノベーション・コースト構想の事業に採択。現在は測量ソリューションを主軸に、「社会コンサルタント」として街づくりを担い、多角的な事業展開を進めている。

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(2020年3月現在)