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未来テクノロジー

テクノロジーが拓く、豊かな未来。挑戦し続ける人と企業をクローズアップ

再生可能エネルギーを通じ、地域をつなぐ 誰もが笑顔になる持続可能な社会を目指す

2021年03月11日

小峯 充史さん

株式会社エコロミ 代表取締役

群馬県高崎市出身。早稲田大学政治経済学部政治学科中退。株式会社ブリヂストンテクノシステムにて冷凍冷蔵倉庫等の防熱工事に従事。その後東京海上日動あんしん生命保険株式会社在職中より、調布市青年会議所でフードマイレージを活用した小学生向け教材作りや、地球温暖化防止シンポジウムなどを開催する。東日本大震災を機に再生可能エネルギーに関心を持ち、2012年株式会社エコロミを設立。株式会社さくらソーラー、株式会社阿寒マイクログリッド、一般社団法人調布未来のエネルギー協議会代表理事など、役職多数。

太陽光発電によるオール電化住宅、風力発電やバイオマス発電など、ここ数年、再生可能エネルギーは身近になった。さらに、エアコン、コンピューター、電気自動車など、暮らしや産業に電気はますます欠かせない。環境・エネルギー分野の事業開発、コンサルティングを行っている株式会社エコロミは、富岡町の太陽光発電事業「富岡復興ソーラー」のプロジェクトマネジメントを行っている。代表取締役の小峯充史さんに事業への思い、これからのエネルギーの在り方をうかがった。

農地を次代につなぐ大事業
「富岡復興ソーラー」

常磐自動車道「常磐富岡IC」を下り、JR常磐線夜ノ森駅に向かう道中。青空が広がる開けた土地に、太陽光パネルがどこまでも並ぶ景色に目を奪われる。

もともとは田畑が広がるのどかな場所だった富岡町。東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって全町避難を強いられた。6年後、避難指示が一部解除。田畑の除染は終えていたが、多くの町民が避難先で暮らしていたこと、農作物を生産したとしても風評被害の恐れがあり、以前と同じように農業をすることはできなかった。

富岡の人たちは悩んだ末、「代々受け継いできた農地を、地域の将来のために役立てたい」と、太陽光発電事業を立ち上げた。敷地面積は約35万平方メートル。地権者は30世帯ほど、総事業費は95億円以上というビッグプロジェクト。メガソーラー事業の実績があったエコロミが、「富岡復興復興ソーラー」のプロジェクトマネジメントを担うことになった。

地域主導型では国内最大級の太陽光発電事業「富岡復興ソーラー高津戸・清水前太陽光発電所」。全国から市民出資も募り、約320人から6億2400万円が集まった

エコロミが担当したのは、地権者交渉をはじめ、事業計画や設備設計、業者の手配、行政への申請、ファイナンススキームの構築、太陽光パネルの保守・運営など多岐にわたる。

「南相馬市、いわき市、郡山市、東京など、全国に散らばった地権者を訪ね歩き、事業説明させていただいたのは大変でした」と当時の苦労を振り返る小峯さん。また、地権者向けの自然エネルギー学習会を開き、事業をどのように富岡町の将来につなげていくか住民とともに考えることも忘れなかった。

2014年から計画がスタートし、小峯さんは年間100日ほど富岡町に通ったという。2017年に工事が着工し、2018年3月に発電を開始。電力は32メガワット(一般家庭約1万世帯分)。得られた剰余利益は、福祉や農業などの復興支援事業に使われている。

小峯充史さん(株式会社エコロミ 代表取締役)。「富岡復興ソーラーの主体者はあくまでも住民。私たちは支援者として地域の復興をお手伝いしています」

環境と経済を両立させた再生可能エネルギーで
地域が抱える課題のソリューションを提案

エコロミが創業したのは2012年。東日本大震災の原発事故を目の当たりにした小峯さん。今まで環境に優しい発電方法の一つだと思っていた原子力発電は、どうやら間違っていたのでは、と思うようになった。そんなとき、再生可能エネルギーが世間でも注目を集めるようになり、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まった。

「再生可能エネルギーが日本や世界にどんどん広がっていくのなら、これを仕事にできたらいいなと漠然と思うようになりました。でもお金がない(笑)。そこで、地域に根ざし、地域のための事業なら、出資してくれる人や会社がいるかもしれないと考えたんです」

以前よりまちづくり活動で懇意にしていた調布市にも協力していただき、環境省の地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務へ応募。まとまった土地がない調布市では、太陽光発電施設を作ることが難しいとされていたが、公共施設の屋根を借りて市民主導で太陽光発電事業を行うというアイデアが、見事採択される。実際に事業を進め、点在する34ヵ所の発電所を合計すると約925kW(キロワット)になり、メガソーラーと同等の発電量になった。

「エネルギーの地産地消」を目指し、市民主導で始まったプロジェクト。都市部の住宅地やオフィス街など、建物が密集した地域でも、屋根分散型であればメガソーラー事業が経営可能であることを実証した

また、「剰余利益は全て地域に還元する」という考えから、事業主体は非営利型株式会社とし、銀行からの借り入れだけでなく、市民からも出資を募った。株主への配当金はなく、代わりに「地域に貢献できたという満足感」を得られるユニークな仕組みも話題を集めた。

「行政の補助金などを使い事業計画を立て、ビジネスにしていくのが弊社のスタイル。税金を使っているので、雇用を生んだり、地域防災に役立てたりと、私たちのビジネスがいかに地域に貢献し、地域の課題を解決できるのかを常に意識しています」と小峯さん。

「エコロミはエネルギー事業というよりも、再生可能エネルギーをツールとして、地域の課題を解決する、まちづくりに近い事業体です」

地域資源を活用した地域に優しい社会
電気を作るだけでなく「使う」も大切に

震災前、富岡町には850ヘクタールの田畑があった。現在、他の事業者も含め、太陽光発電として使用しているのが120ヘクタール。いまだ多くの田畑が手付かずの状態だ。

これまで農地の除草作業は行政が助成していたが、2020年3月で終了。担い手である農家はほとんど帰っておらず、このままでは雑草が生え、荒れてしまう。農地は使っていないとやせてしまい、以前のような豊かな土に戻すには、放置した年数と同じだけかかると言われている。震災からすでに10年が経とうとしている。

そこで、ただ単に農地を保全管理するのではなく、空いた田畑に大規模耕作が可能な作物を作り、耕作管理しようと考えた。しかし、農作物を地植えで作ると放射性物質を吸い上げてしまうため、農林水産省の基準値を下回っていたとしても、なかなか販売には結びつかない。

そこでエコロミが注目したのは、「ソルガム」というイネ科の穀物。福島はもともと乳牛や肉牛などの畜産が盛んな地域。牛の飼料としても利用されているソルガムを、放射性物質が検出されなくなるまでは飼料としてではなく、発酵させることでメタンガスを産出し、バイオマス発電に活かすモデルを考えた。余った熱はビニールハウスで使い、田畑に残ったソルガムの茎や根はトラクターですき込み、肥料にするという計画だ。

「でも、事業計画を進めていたその年、国の制度が変更され、エネルギー作物で作った電力は固定価格買取制度では売れなくなってしまったんです。ビジネスとして成立せず、計画は中断せざるを得なくなってしまいました」と悔しがる。それでも小峯さんは諦めず、2021年、エコロミは農業にチャレンジする予定だ。

メタンガス発電の実証実験で使用した装置。「実現はできませんでしたが、多くのことを学ぶことができました」

「放射性物質の問題はなかなか難しいので、施設園芸をしようと思っているんです。ハウスで農作物を育て、それを素材にサプリメントを作るというビジネスモデルなんかどうかと。地域の田畑が荒れてしまうのが一番の問題。それを解決するアイデアをみんなで考えています」

小峯さんは、どうしてそこまで頑張れるのだろうか。

「自社のホームページでは、再生可能エネルギー系のコンサル会社のように見えてしまいますが、新しいビジネス構築を、机上論で終わらず、自ら出資し、事業を立ち上げ、運営しているのが他社との大きな違いです。いつからでしょうかね、再生可能エネルギーを使い、地域課題を解決するのがかっこいいって思っちゃったんですよね」と笑う。

地域に根ざした新たな事業を計画
大切なのは「地域の思い」をつなぐこと

富岡復興ソーラーは事業開始から20年経つと、土地を地権者に返還する可能性がある。次の世代(地権者の子世代)は農業経験がないため、農業の再開は難しいだろうと小峯さんは考える。

「だから、返還後のプランも考えなくちゃいけないんです。農業にチャレンジするのも、返還プランの勉強という意味もある。土地を貸してもらうために一軒一軒まわって、被災者になった悔しさや昔話をいっぱい聞かせてもらいました。そういった方たちの土地を借りている。だから、20年たったら終わりではなく、その先まで一緒に歩むことがエコロミの責任です」

取材中に再会した地権者の方と。農業をはじめようと思うので、いろいろと教えてくださいと言う小峯さんに、「いつでもおいで」と答える。確かな信頼関係を垣間見た瞬間

2019年からは福島県の地域復興実用化開発等促進事業費補助金を使い、太陽光で発電した電力を蓄電池にためる「中規模オフグリッド型蓄電システム」の研究開発にも取り組んでいる。病院などは停電しても自前の発電システムを持っているが、そのようなバックアップシステムのない公共施設や高齢者施設などでの利用を想定している。

「この蓄電システムは、LPガス発電機も併用しています。施設全ての電力をまかなうことはできませんが、例えば、ナースコールやペースメーカーといった命に関わる最低限のシステムを維持するには十分。1週間程度の停電にも耐えられる性能を考えています。今年から福島県内で組み立てを行い、雇用を生み出そうと考えています」と展望を語る。

最後に、小峯さんが想像する未来の地域の在り方を尋ねると、「自分たちで使う電気は、自分たちで作るのが理想ですね。それでも足りないなら、互いに融通し合うことも大事です。そして、融通するのは電気だけではないんです」と話し始める。

「例えば、高齢者世帯は家が大きくて、太陽光発電があっても、ふたり暮らしなので電気が余ってしまう。これを電気の使用量が多い現役世代に融通する。これをきっかけに地域のコミュニティが生まれ、例えば、交通手段を持たない高齢者が苦手な買い物を現役世代が代行したり、時間に余裕があり社会的交流が少ない高齢者が子育てをサポートしたりしてもいいですね。日常生活や社会的に必要なもののやり取りも行われることで、子育て問題や高齢者問題などを解決できるはず。両者をつなぐ役目として、エコロミのような地域エネルギー会社が存在する。これを実現するのが私の夢なんです」と目を細める。

電力小売り事業を通じた、電力供給調整と地域包括支援事業のイメージ図。電気の融通をきっかけに、地域の交流が生まれ、さまざまな課題を解決する

経済も、環境も両立した持続可能なまちづくり。エコロミの再生可能エネルギー事業が、未来を明るく照らしてくれる。

株式会社エコロミ

2012年7月設立。「地球にやさしく、地域資源を活用して、エネルギー自立の進んだスマートな社会」「50年後の子どもたちに、安全・安心・脱炭素な社会をつくる」を目指す。ベンチャーならではのチャレンジ精神、機動力、柔軟性をもって、再生可能エネルギーの事業開発、マイクログリッド事業開発、IoTを用いた創蓄電管理サービス、コンサルティング事業を行う。東京都、群馬県、福島県、北海道などで、地域が主体となった再生可能エネルギー事業開発を展開。