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今年9月に開催された愛知大会に続き、2021年10月8日から10日の3日間、福島ロボットテストフィールド(以下RTF)で「World Robot Summit 2020福島大会」(以下WRS)が行われた。新型コロナの影響で約1年間延期となったが、福島大会で実施された「インフラ・災害対応」カテゴリーに、国内外から数多くの参加者が集い熱い競技を繰り広げた。ロボット関連のブース展示やドローン操縦体験、VRアーティストステージ、相馬野馬追騎馬行列など、催し盛りだくさんの「ろぼいち」も同時開催され、多数の来場者が訪れ未来のテクノロジーや浜通りの魅力を満喫した。
初日の開会式に姿を現したのは、福島県須賀川市出身のミュージシャン・俳優でWRSの大会アンバサダーを務めるディーン・フジオカさん。
ディーンさんは、開会式で「新型コロナの影響で延期となっていたWRSが無事開催できたことを心からうれしく思います。生まれ故郷の福島での開催は感慨深いものがあります。選手のみなさんは長い期間、準備してきたことでしょう。悔いのないように頑張ってください」とあいさつ。WRS応援サポーターの杉本雛乃さんとともにオープニンングに華を添えた。
大会の開催延期は、参加した各チームに少なからず影響を与えた。大会へ向けて準備を重ねてきたメンバーが卒業で入れ替わることや、海外のチームの中にはやむなく参加を断念するケースもあったと言う。一年越しの様々な思いを胸に国内外から22チームが現地参加した「インフラ・災害対応」カテゴリー。「プラント災害予防」チャレンジ、「トンネル事故災害対応・復旧」チャレンジ、「災害対応標準性能評価」チャレンジの各部門で、ハイレベルな競技が3日間にわたり繰り広げられた。
WRSは「Robotics for Happines」をテーマに、人とロボットが共生し、協働する社会の実現を目指すロボット国際大会。この大会に先立ち、2018年にプレ大会が行われた。プレ大会には、筑波大、東京工業大、大阪電気通信大などが参加した。この時「トンネル事故災害対応・復旧」チャレンジで、並みいる強豪を抑えみごと優勝したのが会津大だ。
あれから3年、各チームとも雪辱を果たそうと準備を重ねてきたに違いない。これから準決勝という本大会2日目。準備の合間を縫って会津大のメンバーである大橋さんと渡部上級准教授にお話しをうかがった。
「トンネル事故災害対応・復旧チャレンジは、オンライン上にコースを4つ与えられるのですが、決められたルールをもとにロボットを使って災害現場のタスクをこなしスコアを競います。私の役割は開発担当で、ソフトウェアを使ってシステムの改良を行ってきました。参加9チーム中、予選を通過できるのは6チーム。昨日の予選ではパソコンのセットアップに時間を要してしまい、ぎりぎりの6位で辛くも通過しました。今日の準決勝、明日の決勝とコースが新たに設定されタスクも難しくなるので、挽回できるようシステムを調整しているところです」とやや緊張した面持ちの大橋さん。
「先日、会津大は『国際大学対抗プログラミングコンテスト(以下ICPC)』で世界27位という成績を収めることができました。私は、長年ICPCやパソコン甲子園などに関わってきましたが、WRSは初めて参加しました。プログラミングコンテストとは違い、技術力・操作力に加え災害対応ならではの臨機応変なルールに対する想像力や適応力が求められるより実践的な競技会です。出場するからには優勝を目指していますが、今後はそれなりの準備をして本番に臨まないといけないと痛感しています」と課題を感じている様子の渡部上級准教授。
挽回を期し臨んだ準決勝、決勝。目標の優勝には残念ながら届かなかったが、会津大は3位という優秀な成績を残した。大橋さんと渡部上級准教授は、準決勝、決勝と会津大が持つ本来の力を発揮できた安心感からか、表彰式後にこやかな表情を浮かべていた。
専門的なイメージがある競技会だが、競技の実況解説やライブ配信を行い、競技に馴染みのない一般の方にも分かりやすい工夫がされていた。
会場となったRTFは、無人航空機や災害対応ロボット、自動運転ロボット、水中探査ロボットの研究開発、実証実験などを行える世界に類を見ない大型研究施設。東京ドームに換算すると、約10個分もの敷地が広がると言うから驚きだ。
同時開催された「ろぼいち」の屋外ステージ上で、華やかな衣装を身にまといヴァーチャル・リアリティ(以下VR)を作り上げるステージを披露。観客から注目を一身に集めていたのが、VRアーティストのせきぐちあいみさん。軽快なBGMにのせてポーズを決めながら、両手に持つコントローラーで立体的な龍の絵をあっという間にモニター上に描きあげていく。
「5年前にたまたまVRを体験。その魔法のような楽しさの虜に。SNS上に作品をアップしていたところ、世界中から反響があり職業として活動できるようになりました。VRアートを通じてみなさんの想像力を広げることが私の原動力。『みなみそうま未来えがき大使第1号』として任命していただき、VRで地元の小高神社なども描いています。イベントで楽しみながら、地域を盛り上げるお手伝いができたらと考えています」と南相馬に思いを寄せるせきぐちさん。
拍手が巻き起こったステージから少し離れた広場に現れたのは、相馬野馬追の勇壮な騎馬武者たち。法螺貝の音色に合わせてまるで出陣するかのよう。祭日以外に練り歩く野馬追の姿を目の当たりにできるのは、南相馬市にあるRTFならではの醍醐味と言えるかもしれない。「甲冑騎馬武者行列」の空き時間には、「乗馬体験」が行われ、子どもたちが歓声をあげていた。
屋内の施設では、「水中ロボット操縦体験」、「プログラミング体験」など楽しみながらロボットに触れることができるコーナーが用意されていた。小さな子どもたちが親と一緒に操縦やプログラミングに夢中になっている姿が印象的で、将来成長した子どもたちがロボットとどんな世界を創り上げていくのか興味を覚えた。
RTFの特徴的な施設の1つである緩衝ネット付飛行場で行われたのが、「ハイブリッド水素ドローンデモ飛行」。長時間の飛行と環境への配慮を両立した画期的なドローン飛行の様子を間近に見ることができた。
ドローンについて説明してくれたのは株式会社ロボデックス代表取締役の貝應大介さん。「従来のバッテリーだと、ドローンが飛べる時間は約20〜30分。産業用に利用するためにはもっと長い時間飛ぶ必要があるため、5年ほど前から水素を燃料とするドローンの研究開発に取り組んできました。このハイブリッドドローンは、従来の約3倍に相当する約90分の飛行が可能です。将来は、浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(通称FH2R)で作られた水素を燃料とする予定で調整を進めています」小型ドローンの操縦体験も行われ、参加希望者が順番待ちの列を作るほどの人気を集めていた。
RTF内の路上には、たくさんの展示ブースが並んでいた。あちらこちらのブースでロボットやドローンに気軽に触れられるとあって、大人も童心に帰り時を忘れて体感している様子が見られた。南相馬市のブースでは、ネジで出来た「ネジロボ」が当たるガチャに参加でき、オリジナルのWRSバッジを手に入れることができた(笑)。
取材の最後に、大会を取り仕切る運営事務局の林さんを訪ねた。
「地元の旅館業組合や商工会議所など、関係者のみなさんに協力を仰いで、地域のみなさんと一緒にこのイベントを作り上げることができました。今回の大会を機に、RTFを訪れる人たちがますます増えて、ロボットやドローンに関わる人も増えたらとうれしいですね」
「RTFは、災害の現場を再現した日本中を探してもここにしかない施設。屋外にこれだけ広い会場を確保でき、ドローンの飛行体験やエアショーを実施したり、相馬野馬追を再現したりと、幅広い催しを行える可能性のあるフィールドだと思います。WRSも今後どんな形になるか分かりませんが、社会実装を目指した今大会の総括を行い、今後のあるべき姿を考えていきたいと思います」
最先端のロボットとそれを使いこなす技術者たちが集い、社会の課題と向き合い競った「World Robot Summit 2020福島大会」。同時開催の「ろぼいち」とともに、人間とロボットが共生する幸せな未来が垣間見えたイベントだった。
Word Robot Summit 2020
WRSは、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する、国際的なロボット大会。「Robotics for Happiness」をテーマに、人とロボットが共生し、共同する社会の実現を目指す。ロボットの技術やアイデアを競う競技会や展示会で構成されている。新型コロナの影響で開催が1年延期となり、2021年9月9日〜12日にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で「ものづくり」「サービス」「ジュニア」カテゴリーの競技会が、同年10月8日〜10日に南相馬市の福島ロボットテストフィールドで「インフラ・災害対応」カテゴリーの競技会などが実施された。