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イノベ構想の歩みと、未来への飛躍を考えるシンポジウムを開催

2021年01月28日

浜通り地域等の復興と新産業創出を目指す「福島イノベーション・コースト構想」。これまで取り組んできた基盤整備のためのプロジェクトや成果を発信し、未来について考える「第5回福島イノベーション・コースト構想シンポジウム」が、2020年12月19日、双葉町産業交流センターを主会場に、東日本大震災・原子力災害伝承館をサテライト会場として開催された。加藤勝信内閣官房長官をはじめ、内堀雅雄福島県知事、伊澤史朗双葉町長らのあいさつを皮切りに、構想の実現に向けて取り組む企業や学生らが登壇し、成果発表やトークセッションが行われた。当日は、オンラインでの参加者を加えた約400名が参加。東日本大震災および、原子力災害から10年がたち、さまざまな課題を乗り越え、浜通り地域の未来をつくるためのヒントを探った。

シンポジウムの開催にあたり、加藤勝信内閣官房長官をはじめ、内堀雅雄福島県知事、伊澤史朗双葉町長らからあいさつが行われた。

「このシンポジウムをきっかけに構想の実現をさらに進めたい」と、福島イノベーション・コースト構想推進機構理事長 斎藤保

「イノベ構想の取り組みを加速していく」と、内堀雅雄福島県知事

「政府としても各プロジェクトを推進する」と、加藤勝信内閣官房長官

「双葉町は新たな未来を考える場所」と、伊澤史朗双葉町長

交流人口拡大に向け、
浜通り地域のファンを増やす

まず、阪本未来子氏から「常磐線を活用した交流人口の拡大について」をテーマに基調講演が行われた。

東日本旅客鉄道株式会社 常務執行役員として、鉄道事業本部営業部、観光、オリンピック・パラリンピックを担当。2019年より、福島イノベーション・コースト構想推進機構理事も兼職

常磐線の歴史は古く、1890年頃の水戸鉄道に始まった。当初は、常盤炭田から産出される石炭の輸送を目的に設置され、日本のエネルギー政策や経済の発展を支えてきた歴史を解説。近年では、ビジネスや観光として多くの人に利用されている。

2011年の東日本大震災によって甚大な被害を受け、常磐線の一部区間が不通になったが、「つなげよう、日本。」を合い言葉に復旧に取り組み、2019年4月には新駅「Jヴィレッジ駅」の開業、そして2020年3月14日に全線運転を再開した。

震災から10年の節目であるこの4月からは、東北6県が一体となり、史上初の6カ月間のディスティネーションキャンペーンが行われる。「巡るたび、出会う旅。東北」をキャッチコピーに掲げるこの国内最大級の観光キャンペーンに、浜通り地域の交流人口の拡大を目指すと意気込む。

いわき市への旅行者は、意外と福島県や近隣県の人が多いというデータを引き合いに出し、東京からの集客も重要だが、まずは地元や自分の周りのお客さまを動かすことが重要だと説く。この観光キャンペーンを通じ、多くの「浜通りLOVER」を増やしたいと語った。

福島から、先端ロボット工学技術を推進

ここからは、イノベ構想に関わる各組の成果を発表。トップバッターは、福島ロボットテストフィールドでロボット開発を行う株式会社人機一体代表取締役 社長 金岡博士。

ロボット制御工学博士、発明家、起業家。ときに武道もたしなむ。ロボット産業で大切なのは、「人の想い」

先端ロボット工学技術がありながらも世の中に普及しておらず、生身の労働がいまだ続く社会に対し、「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」をミッションに掲げ、人型重機の開発に取り組んでいる。

人型重機とは、人の運動能力をロボットに移し替え、思い通りに操作できる人型ロボットのこと。ロボットの上半身と下半身を別々に試作し、統合することで、最終的には4メートルもある人型ロボットが完成する。土木建築や重作業、物流運搬、災害復興などでの活躍を想定。数年後には社会実装したいと声を大きくして話す。

人機一体はロボット製造業ではなく、先端ロボット工学技術を有する知的製造業だと強調。この革新的な知的財産を求心力に、リソースと産業を集める仕組み「人機プラットフォーム」を福島から導入したいと計画を披露した。

大熊町に新たな産業をつくりだす

双葉郡大熊町で復興のシンボルとなるイチゴの周年栽培をする株式会社ネクサスファームおおくま 取締役工場長の徳田辰吾氏。栽培面積は2.2ヘクタール、15万株を作付けする、東北で最大規模のイチゴ農園だ。

本職は調理師。工場の設計段階から携わり、栽培技法の調査、確立など、あらゆる面で事業をサポートする

大熊町の避難指示が一部解除された2018年に創業。いまだ避難指示が残る大熊町にいつか帰ってくる町民や、新しく移り住む人たちを迎え入れられるよう、10年、20年かけて産業をつくることを目標に掲げる。

高齢者や障がい者など、誰でも働ける農業をつくり、次世代の農業者育成を目指す。さらに、どこよりも安全で安心なイチゴを栽培するため、コンピューターを使い集めたデータを分析。目指すのは、「継続可能な組織農業」だと言う。

工場内にはエアコンやLEDライトをはじめ、ミスト装置、ウェブカメラ、放射性物質測定装置など、最新機器を導入。さらに、温度や湿度、光量、二酸化炭素濃度、水などを独自開発したプログラムを使いコンピューター制御している。創業から4年がたち、収穫は上々。平地では難しいといわれる夏イチゴも収穫でき、ジャムなどの商品として販売もしている。

いつか大熊町が、「イチゴのまちになった」と言われる日を楽しみに、これからも栽培に取り組んでいきたいと締めくくった。

学生に気づきを与える、
福島復興にかける大学の取り組み

東京大学アイソトープ総合センター 研究開発部 秋光信佳教授からは、「我々の未来に『大事なこと』を伝えるために」と題し、「復興知」事業で、自治体・住民と協力した教育研究成果を発表。

2011年の震災直後から、浜通りの被災地で放射能汚染調査、除染に従事

「復興知」とは、全国の大学などが持つ福島復興に役立てる「知」のこと。この復興知を浜通り地域などに集積するために、大学間、研究者間の相互交流、ネッワークづくりなど、さまざまな事業が行われている。

東京大学では、保育園・小学校の線量調査といった被災地支援の活動から得られた知識を生かす「復興知学講義」を実践している。50名以上の学生が受講し、池上彰さんをはじめとした3名の講師から、原発事故と復興の社会科学を学び、日本原子力研究開発機構(JAEA)など、福島で活動する8名の講師から実践的な復興知を学んだ。

講義後の学生アンケートには、「福島を普通の県として扱うべきだ」という記述があり、対等なパートナーとして、ともに復興に取り組むことが大事だと気づいた学生の存在が印象的だったと秋光教授は話す。また、浜通りスタディツアーに参加することで、多くの学生が、浜通り地域のことを好きになったという調査報告を紹介。

今後は、「福島復興知学」の書籍化、全国の大学や海外に向けた情報発信を計画している。さらに、楢葉町と共同し、2022年度の開館に向け、化石や鉱石を展示するモバイルミュージアムプロジェクトなど、自治体や住民とともに推進する活動が予定されている。

未来を担う学生から、
地域に根ざした実践を発表

双葉郡では、学校が地域を題材に探究的な学習活動をする、独自の教育プログラム「ふるさと創造学」を行っている。福島県双葉郡教育復興ビジョン推進協議会(双葉町立双葉中学校の生徒代表)渡部勇さん、渡部颯斗さんが登壇し、双葉町の伝統芸能「山田のじゃんがら念仏踊り」や「せんだん太鼓」を地元の高齢者から学ぶ様子を発表した。

故郷の伝統芸能を絶やさないために、生徒一丸で挑戦

2年生は、廃炉技術やロボット技術といった5つのテーマを設け、研究施設や地元企業を見学。1年生からは、ロハス工学や震災復興・まちづくりなどを学ぶ大学教授の出前授業や、ドローン講習会、英語研修会などを実施した。

福島県立相馬高等学校 普通科2年 荒竜馬さん、理数科1年 田中愛梨さん

社会活動家を招いてのワークショップ、福島ロボットテストフィールドの訪問見学、英語によるプレゼンテーションを通じた地域理解学習の取り組みなどを発表。

福島県立原町高等学校 髙玉美葵さん、福井遥日さん、櫻井美佳さん(ともに普通科1年 )

食品流通学科、緑地土木科、園芸科、生活科学科の4つの学科の特色を生かしたプログラムを実践。2020年度に完成した太陽光型植物工場や堆肥プラント、バイオマスガス発生装置を活用し、今後も研究を継続する。

福島県立磐城農業高等学校 園芸科3年 蛭田圭一朗さん、園芸科2年 渡辺堅心さん

「先進農業を理解し、農業教育を通じて地域に貢献できる人材を育成する」を目標に、地域や専門家の教育を仰ぎながら、新しい農業学習に取り組んだ。活動後アンケートでは、すべての学生がイノベ構想を理解したと答えた。

福島県立相馬農業高等学校 食品科学科2年 寺澤もえさん、生産環境科2年 渡部孝太郎さん

プレゼンテーション講座や演習活動で学んだ知識や技術を活用し、高校や学科の魅力をまとめ、中学生の体験入学や出前授業で披露。「幅広い視野でものごとを見る洞察力が身についた」と振り返った。

福島県立平工業高等学校 土木環境工学科3年 長谷川凛さん、土木環境工学科2年 野地夏輝さん

浜通り地域に暮らす人たちが主役
手を取りあい、新たな未来を築く

イノベ機構が設立され3年。これまでの成果をどのように大きく育てていくか、また分野をまたぎ、イノベーションを起こしていけるかが今後の課題。4名のスピーカーとともに、「イノベ構想の今後の展開と目指す姿」をテーマにトークセッションが行われた。モデレーターは、福島イノベーション・コースト構想推進機構の事務局長である紺野貴史。

阪本さんは、交流人口の拡大に向け、浜通り地域の人が自分の言葉で地域の魅力やストーリーを発信していくことが大事だと述べる。そのためには、自らも旅することで、地域の魅力に気づくことができると提案。見つけた気づきを集め、発信し続けてほしいと語った。

浜通り地域を旅する観光客は、さまざまな価値を体感することで人生が豊かになっていく。地域と人がつながることが重要で、そのための必要なのが「対話」だと言う。

福島の「ありのままの姿(光と影)」と、復興に向けチャレンジし続ける人たちとの対話を通して、震災や原発事故から教訓を得る「ホープツーリズム」。教育旅行や企業の人材育成、個人や外国人などの参加者それぞれが、自分の人生の糧となる“きっかけ”を、「ホープツーリズム」を通じて、見つけてくれればと話した。

人機一体が福島に来た理由は、ドラマをつくりたいからだと金岡博士は答える。未曽有の災害から、以前の姿に戻ることがゴールではなく、さらに飛躍することが大事だと説く。人機一体はあくまでも触媒であり、主役は地域の人たち。毎日の地道な積み重ねが大事。一緒にがんばりましょうとメッセージを送った。

徳田さんは、今の農業は閉鎖的で、交流がないと指摘する。「ネクサスファームおおくま」では、農家間交流をはじめ、業種に関わらずノウハウやアイデアを積極的に入れ、個々の能力を高めていく仕組みを取り入れている。

登壇した中学生や高校生は10年後、最前線で働いているはず。だからこそ、彼らのやりたいことを全力で応援することが、大人の役割だと熱く語る。僕たちの姿を見て、あとを追ってくれる子が1人でも現れてくれたらうれしいと続けた。

震災と原発事故が起こり、何かしなければとの思いだけで現地に入り、10年間、活動を続けてきた秋光教授。いつしか、福島の出来事が、“わがこと”になっていたと話す。活動を通じて得た知識や経験を体系化し、次世代に伝えていくことが大学の役割であり、使命だと語った。

人類史を見ると、戦争などが起こっても、人は何度も復活してきた。福島は、まさに再生の物語を現在進行形で紡いでいる場所。今、海外で知られている日本の都市は、東京と京都、そして福島の3つ。世界が注目しているチャンスを生かし、がんばりましょうとメッセージを送った。

4人のスピーチを受け、「先頭に立って走ることがイノベ機構の役割で、未来の姿を次世代にみせていく覚悟を持たなければならない」とモデレーターの紺野がまとめると、会場からは大きな拍手が起こった。

震災や原発事故から10年がたったが、まだまだ道半ば。地域の人や企業を巻き込んだ、さまざまなプロジェクトが現在も行われている。今後、どのような成果が生まれていくのか、イノベ機構の活動から目が離せない。

シンポジウムの様子は、YouTubeでも見ることができる。
https://www.youtube.com/watch?v=7LPbPAZNfZU