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文:小林 正典
福島イノベーション・コースト構想推進機構 産業集積部長
福島イノベーション・コースト構想(以下、イノベ構想)は、2011年の東日本大震災および原子力災害により、産業基盤や雇用が失われた福島県浜通り地域等(イノベ地域)(※)に、新たな産業を集積し産業の復興を目指す国家プロジェクトです。前回のコラムでは中核的推進機関である福島イノベーション・コースト構想推進機構(以下、イノベ機構)の支援フレームワークをご紹介しました。今回はその具体的な取り組みとして、新技術の社会実装から販路開拓まで、実用化支援の事例に焦点を当てます。
※福島県浜通り地域等(イノベ地域):福島県いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村
イノベ構想が掲げる産業集積の一つのゴールは、実用化開発や実証成果の社会実装です。そのためイノベ機構では、実証場所の選定や実用化開発・実証のための適地探し、さらには実証成果の導入に向けた展示会でのPR活動、候補先へのマッチング支援(つなぎ込み)まで、一貫した支援を実施しています。本稿(前編)では、実際の導入事例と販路開拓支援の具体例をご紹介します。
社会実装支援事例:株式会社e6s
災害時対応の循環型トイレを一般施設に初導入
日本大学発ベンチャーの株式会社e6s(エシックス)は、インフラに依存しない循環型水洗トイレ「e6sシステム」を開発しました。本事例では、同システムの実機導入に向けた支援についてご紹介します。
e6sシステムは、日本大学工学部が提唱するロハス(LOHAS)工学(健康で持続可能な生活スタイルを意味するLifestyles of Health and Sustainabilityの頭文字を取って、学科の枠を越えた連携によりLOHASを実現する取り組みを行う)に基づき、実用性よりも概念先行のデザインで開発がスタートしました。やがて、被災地といった設置に制約がある場所への導入等を検討していく中で、より実用性を重視するようになり、どんどんコンパクトになり機能的に改良されていきました。
ただ、実機として設置されるためには、日頃から人目に触れて災害時には避難場所になり得るような場所で、実用性を広く一般に披露して認知してもらう必要があります。
これらの課題を踏まえ、福島県とイノベ機構の関係者による粘り強い働きかけにより、福島県最大級の複合コンベンション施設「ビッグパレットふくしま」(郡山市)へのショーケース設置が実現しました。今後は非常時だけでなく、平常時の使用や量産化への改良が進むことに期待が寄せられています。
写真:e6sシステムの設置と導入セレモニー
2024年12月2日、郡山市のビッグパレットふくしまに全国初となるe6sシステムが導入された。
写真右は、株式会社e6s高波正充代表取締役、日本大学工学部中野和典教授らが参列したセレモニーの様子
関連記事:https://www.fipo.or.jp/htc/3/33975
販路開拓支援事例:株式会社福島三技協
人による高所作業をドローンで代用する新技術をPR
次に、株式会社福島三技協の風車接地線点検ドローン「Dr.Bee」についてご紹介します。同社は産業プラントの保守点検を得意とする企業です。
これまで風力発電機の各羽根の雷用接地線点検は、作業員が命綱を使って高所での危険な作業を行う必要がありました。この作業をドローンによる点検に切り替えたところにイノベーションがありました。そうして開発されたのが点検用ドローン「Dr.Bee」です。
同社はもともとドローンメーカーではなく、保守点検市場へのドローンの導入に向けて広く新規に営業開拓する部分に不安を持っており、当機構に相談がありました。そこで当機構では、大規模展示会での効果的なPR方法や、興味関心のある事業者を同展示会に招致するなどの支援を行いました。結果として、複数社から引き合いがあり、そのうちの1社から商用保守点検を受託することができました。現在も後続案件が控えており、さらなる社会実装が期待されているところです。
写真:メディア発表会の様子
2024年10月9日開催の福島イノベ企業第2回メディア発表会にて、株式会社福島三技協が
ドローンによる風車の導通検査技術について説明。写真は発表会の様子
関連記事:https://www.fipo.or.jp/news/33209
後編では、イノベ機構による、実証場所の選定や実用化開発・実証のための適地探しの事例をご紹介します。