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文:小林 正典
福島イノベーション・コースト構想推進機構 産業集積部長
前回は、福島イノベーション・コースト構想推進機構(以下、イノベ機構)による社会実装と販路開拓の支援事例をご紹介しました。今回は実証実験の現場に焦点を当て、地域の事業者との連携による成果をご紹介します。実証実験の成功には、条件を満たす実証場所の確保や、協力事業者の存在が不可欠です。福島県浜通り地域等(イノベ地域)(※)の復興に向けて、多くの事業者の皆さまにご協力いただいている実証の取り組みについてお伝えします。
※福島県浜通り地域等(イノベ地域):福島県いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村
実証実験の成功には、適切な実証場所の確保と、地域の事業者との協力関係の構築が不可欠です。ここでは、イノベ機構が支援した実証実験の中から、地域との連携による成果事例の一部をご紹介します。
実証支援事例:食品廃棄物の資源化に挑戦
環境微生物研究所株式会社によるメタン発酵発電システムの実証
環境微生物研究所株式会社は、東日本大震災の被災経験を持つ大学研究者が設立した企業です。「雑草から発電できないか」という着想から、牛の消化メカニズムをヒントに研究を進め、微生物による高効率メタン発酵システムを開発。発生したメタンガスを利用した発電システムの実用化に取り組んでいます。
実証実験では、メタン発酵の原料として食品廃棄物に着目し、浜通り地域での実施を計画。イノベ機構と連携協定を結ぶ東邦銀行の紹介により、いわき市のスーパーマーケットとの協力が実現しました。同店舗への提案から約3カ月という短期間で実証実験の合意に至り、食品廃棄物の提供と実証場所の確保が可能となりました。
地域連携による実証支援:常磐興産グループの事例
実証実験の実現には、地域の有力企業との連携が重要な役割を果たしています。東邦銀行との連携協定では、先の環境微生物研究所株式会社の事例のように実証場所の迅速な確保に加え、資金調達やビジネスマッチングなど、多面的な支援をいただいています。
また、スパリゾートハワイアンズで知られる常磐興産グループは、特徴的な実証実験の場を提供している連携先の一つです。同グループでは、以下のような多様な実証実験が実現しています。
1. ロボット技術の実証
・スパリゾートハワイアンズ内での階段昇降ロボットの実証(株式会社クフウシヤ)
・子ども向けプログラミング教室でのロボットキット活用(株式会社リビングロボット)
2. 従業員の健康管理・安全技術
・AI電子瞳孔計(※1)による従業員のストレス・メンタルチェック、従業員約100人の協力による実証(株式会社Mecara)
※1:ゴーグル型の装置で、7秒間の計測により簡便なストレス・メンタルチェックを実現
・従業員の移動・滞留実態計測による業務改善策の抽出(サイトセンシング株式会社)
3. 環境配慮型製品の実用化
・スパリゾートハワイアンズ内レストランでのボタニカルトレイ(※2)採用(トレ食株式会社・トラスト企画株式会社・株式会社カネバン)
※2:もみ殻由来のセルロース51%とポリプロピレン49%を配合した環境配慮型トレイ
株式会社クフウシヤによる階段昇降ロボットの実証実験の様子
(2023年2月、県内メディア向け発表時)
実証実験がもたらす地域との絆
イノベ構想には、福島とのゆかりの有無にかかわらず、多くの事業者やその支援先、協力先が参画しています。
参画企業の皆さまとの対話を通じて感じるのは、事業開発や実証の成功という目標を超えて、イノベ地域と福島の復興、そして新たな産業集積への貢献を強く願う思いが共有されているということです。
この共通の思いが、限られた期間内で適切な実証場所を見つけ、実験を成功に導くという困難な課題にも立ち向かう原動力となっています。実証実験の実現には多くの困難が伴いますが、イノベ地域の未来を見据えた皆さまの熱意により、着実に成果を重ねることができていると強く感じずにはいられません。
イノベ機構は、今後もイノベ地域の復興に向けて実証実験支援の取り組みを続けてまいります。実証の成功は、福島県内外でこのプロジェクトに関わってくださる皆さまのご協力なくしてはあり得ません。引き続き、イノベ構想へのご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。